2024年3月、日銀のマイナス金利の解除。
同年5月・7月には相次ぐ政策金利の引上げ。
今回紹介する書籍は、この激動する銀行業界のイマを知り、ミライを予測するための書『地域金融のあしたの探り方』です。
まずは、目次を見てみましょう。
目次だけ見ても、広範囲で地域経済・地域金融の現状と未来を学べる書籍であることが分かります。
銀行経営の今後の在り方を提唱する書籍『地域金融のあしたの探り方』。詳しい内容は本文をご覧ください!
(この記事にはプロモーションを含んでいます。)
基本情報
- 著者 :大庫 直樹
- 発行日 :2016年3月4日
- 発行元 :一般社団法人 金融財政事情研究会
- 定価 :3,080円(税込)
- ページ数:332ページ
- 本サイズ:中型
発行日が2016年と古い点が気になる方もいると思います。
しかし、本書の目的の一つが地域金融の法則性を明らかにすること。本文にこのような一節があります。
バンカーたちは、「法律ありき」「制度ありき」で考えることが多い。
~中略~
だが、そうではなく市場原理や銀行業としての構造の法則性を深く理解することこそ、本当は大切なのである。法則性を競合より早く見つけ、より深く理解することこそ、人口減少下で生き残っていく確率を高めることでもある。
銀行は規制業種。金融行政の考え方や他行の動向ばかり気にするきらいがあります。
しかし、それよりも大切なのが、地域金融の根底にある不変のロジック(本文で法則性と表現されるもの)。
本書は、この不変の市場原理と銀行構造の法則性を解説するものです。
著者の紹介
著者の大庫 直樹 氏の経歴は以下のとおりです。
もしかすると、大庫氏を知っている銀行員は多くないかもしれません。
大庫氏は、金融機関の経営戦略のプロフェッショナル。
したがって、金融機関の役員や企画部門へのコンサルティングを中心に活動されており、一般行員に広く知れ渡っているわけではありません。
逆に言えば、大庫氏の書籍を読むと、銀行経営者の視点で銀行を見ることができ、銀行員としての視座が広がること間違いありません!
私は、役員から大庫さんの講演の話しを聞かされた際、この本を読んだことがあると伝えて、かなり感心されました!
「地域金融のあしたの探り方」のオススメポイント
さて、ここからは「地域金融のあしたの探り方」が、私たちに何を教えてくれるのか?
4つのオススメポイントを紹介していきます!
- 公的データを使った事実に基づく論理展開
ファクトベースで銀行経営について語られており、業界研究のヒントが得られる。 - コンサル目線での経営戦略の提案
「預貸率50%割れの経営モデル」など、地域金融機関の今後の経営戦略について、コンサル目線での提案が展開されます。 - 産業分類の新たな捉え方
地域経済の活性化を主眼に置いた産業分類の新たな捉え方(ILO産業分類)が紹介されます。 - 銀行員への強烈なメッセージ
本書最終章「バンカーのための科学と科学しについての随想」。アインシュタインを引き合いに、銀行員に向けた矜持が述べられます。
事実に基づく論理展開
銀行経営に関連する書籍は、星の数ほどたくさんあります。
それらの書籍は、
といった内容で、日本経済や銀行のデータを活用したものはほとんどありません。
一方で、本書『地域金融のあしたの探り方』は公的データに基づき、地域銀行の将来予測を行っているという特徴があります。
具体的には
上記のように、公的データという事実をもとに金融資産・貸出残高などの変遷を論じており、現役の銀行員は必ず知っておくべき内容です。
コンサル目線の経営戦略
本書では120ページ(全体の3分の1)に渡り、経営戦略策定のプロである著者による地域金融機関の経営戦略論が紹介されています。
冒頭でお伝えしましたが、政策金利が上昇トレンドに入った今だからこそ、一歩立ち止まって考えないといけないことがあります。以下、本文からの抜粋です。
人口減少時代にあっても、市場金利が上昇すれば資金利鞘が拡大するのか、それが重要な論点になってくる。
「地域金融のあしたの探り方」本文より
政策金利が上がれば、自然体で銀行収益は増加するのか?
答えは、もちろんNoです。
預貸ビジネスのみで戦うならば、結局は資金需要に収益は左右されざるを得ないというのが結論。
ただし、本書の見どころは『であれば、資金需要が見込めない地方金融機関はどのような戦略を取るべきか?』というところまで踏みこんだ提案が展開されるところ。
銀行の合併か、単独モデルか・・・
地域密着か、広域展開か・・・
小規模なオペレーション改善を超え、銀行の経営モデルのリ・デザインへ・・・
様々な気づきを与えてくれます!
新たな産業分類の提案
ここまでは、地域金融機関が中心の内容を紹介してきました。
本書は、地域金融機関を含む地域経済の育み方についても詳しく解説しています。
地域産業の発展なくして、地域金融機関の発展はありえません。
地域産業を育むため
- 新たな産業分類の捉え方(ILO産業分類)
- 地域産業の育成手法
- 数多くの自治体の事例
がきめ細やかに解説されています。
私自身、地域中核産業支援プロジェクトに参画していた際、本書で学んだインバウンド型産業・ローカルマーケット型産業・アウトバウンド型産業(ILO産業分類)の考え方でプレゼンテーションを行い、役員から高い評価を頂きました。
銀行本部の産業支援・企画部門などに勤務する銀行員は、必ず本書を読むべきです!
銀行員への矜持
本書最終章のタイトルは『バンカーのための科学と科学史についての随想』。
科学が関係あるの?
と思いますよね。
これが、見事に繋がるのが本書の魅力。科学史で起きた事象から銀行員たちへの矜持に繋がる文章展開は必読です。
少し長いですが、以下の本文抜粋を是非ご一読いただきたい。
特許局の小役人(三等技術師)、アルベルト・アインシュタイン。科学の世界は、そんな彼の論文を認めたのだ。
だれが書いたのかではなく、論文の内容そのもので判断する世界、それが科学の世界であり、物理の世界であるということだ。
権威、肩書、社会的地位、シニオリティ、みんながよいといっている。バンカーの多くは、こうした観点から評価しようとする。
~中略~
もしアインシュタインが特殊相対性理論についての論文をもってバンカーの前に現れ、査読を依頼してきたらどうなるだろうか。多くのバンカーは「専門家ではないのだから、君には発言権はないよ」と言って追い返すのではないだろうか。バンカーたちは、本当に優れたものを実は見逃しているのではないだろうか。
そして、もう一つ
30年にもわたってコンサルティングを生業とし、多くのバンカーたちとつきあってきたが、多くのバンカーがあまりにも偏った見識に偏執し、銀行業の発展を阻害しているようにさえ思える。
同質性の強い人たちだけとつきあっていけばすむのなら、それ以上に居心地がよいことはない。
~中略~
異質の世界に触れることこそ、成長に反転するチャンスであることを伝えたかったのである。
本書は、地域金融機関の現状と未来を占うことに主眼が置かれているようだが、実のところ、銀行員たちのマインドセットを変えたい。そんな著者の熱い想いが込められているのです!
まとめ
大庫 直樹 氏の著書『地域金融のあしたの探り方』。
本書のオススメポイントは
- 公的データを使った事実に基づく論理展開
- コンサル目線での経営戦略の提案
- 産業分類の新たな捉え方
- 銀行員への強烈なメッセージ
の4点にまとめられます。
特に、最後の銀行員への強烈なメッセージは、単なる知識や思考力以上に、今後の地域金融機関を牽引する若武者たちの心を揺さぶるはず・・・
地域金融、そして地域経済の将来を自らの手で切り拓きたい人に、本書『地域金融のあしたの探り方』を強くオススメします!