銀行の業界研究にオススメの本「地域金融のあしたの探り方」

銀行員の日常
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2024年3月、日銀のマイナス金利の解除。

日銀がマイナス金利解除 17年ぶり利上げに日本経済は耐えられるか - 日本経済新聞
日銀がマイナス金利政策を解除し、17年ぶりの利上げに踏み切った。再び「金利ある世界」が訪れる日本経済を、3回にわたってデータで読み解く。㊤日銀、インフレ率2%への軌跡 揺れ続けた金融政策日銀は2013年4月から大規模な金融緩和策を始めた。黒...

同年5月・7月に相次いだ政策金利の引上げ。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240731/k10014530751000.html

今回紹介する書籍は、激動する銀行業界の今を知り、未来を予測するための書籍『地域金融のあしたの探り方』です。

まずは、目次を見てみましょう。

  • 第1章 人口減少は預貸ギャップを拡大し地方市場を蝕む
  • 第2章 社会異動の奔流は急速な市町村格差を促す
  • 第3章 地域銀行の最終解は合併か独自モデルかの二者択一
  • 第4章 信用金庫は個別の多様化とシステムとしての見直し
  • 第5章 視点を変えた枠組み ‐ILO産業分類と7つの基本軸
  • 第6章 アウトバウンドとインバウンドへ資源を振り向けろ
  • 第7章 地方創生に向けた自治体と地域金融機関への宿題

目次だけ見ても、広く地域金融の現状と未来を学べる書籍であることが分かります。

詳しい内容は本文をご覧ください!
(この記事にはプロモーションを含んでいます。)

基本情報

  • 著者  :大庫 直樹
  • 発行日 :2016年3月4日
  • 発行元 :一般社団法人 金融財政事情研究会
  • 定価  :3,080円(税込)
  • ページ数:332ページ
  • 本サイズ:中型

発行日が2016年と古い点が気になる方もいると思います。

しかし、本書が説明するのは、地域金融の普遍的な法則についてです。

本文の一節を紹介します。

バンカーたちは、「法律ありき」「制度ありき」で考えることが多い。
~中略~
だが、そうではなく市場原理や銀行業としての構造の法則性を深く理解することこそ、本当は大切なのである。

銀行は規制業種。金融庁の考え方や他の銀行にしたがうことが通例。

しかし、それよりも大切なのは「地域金融の根底にある不変のロジック」。

本書は、この不変の市場原理と銀行構造の法則性を解説するものです。

著者の紹介

大庫直樹氏の似顔絵

著者の大庫 直樹 氏の経歴は以下のとおりです。

  • 1962年、東京都生まれ
  • 1985年に東京大学理学部を卒業し、同年マッキンゼー&カンパニーに入社。
  • コンサルタントとして、様々な金融機関の経営改革などに参画。1999年にマッキンゼーでパートナーに選出。
  • 2008年に独立してルートエフ株式会社を設立。
  • 独立後は、特に金融庁との繋がりが深く、金融庁参与や金融研究センター顧問を歴任。
  • 2024年現在は、広島県の特別参与、同志社大学の非常勤講師をしています。

大庫氏を知っている人は少ないかもしれません。

大庫氏は、金融機関の経営戦略コンサルタントで、金融機関の役員へのコンサルティングを中心に活動しています。

逆に言えば、大庫氏の書籍を読むと、経営者の視点で銀行を見ることができ、銀行員としての視座が大きく上がります。

おやつイモ
おやつイモ

私は自行の役員と大庫さんの話しになり盛り上がりました!

「地域金融のあしたの探り方」のオススメポイント

ポイント

ここからは、本書から私たちが学べることを解説します。

オススメポイントは4つ。ご覧ください!

  1. 公的データを使った事実に基づく論理展開
    ファクトベースで語られる銀行経営論から業界研究のヒントが得られる。
  2. コンサル目線での経営戦略の提案
    「預貸率50%割れの経営モデル」など今後の経営戦略に関する提案が展開。
  3. 産業分類の新たな捉え方
    地域経済の活性化を主軸とした産業分類の新たな捉え方(ILO産業分類)の紹介。
  4. 銀行員への強烈なメッセージ
    最終章「バンカーのための科学と科学しについての随想」では銀行員への矜持が述べられます。

事実に基づく論理展開

銀行経営に関連する書籍は、星の数ほどたくさんあります。

それらの書籍は、

  • 銀行出身者の個人の経験談
  • 大学教授など学者による机上の空論
  • コンサルによる知識ベースのもの

が多く、日本経済や銀行のデータを活用したものは少ないです。

一方、本書では公的データに基づく地域銀行の将来予測を行っています。

具体的には

  • 人口推移に基づく個人金融資産の将来推計
  • 生産年齢人口と銀行貸出残高の相関分析
  • 人口の社会移動による経済格差の拡大

公的データをもとに金融資産や貸出金の変遷を論じている点は本書の大きな特徴です。

コンサル目線の経営戦略

本書では120ページ(全体の3分の1)に渡り、地域金融機関の経営戦略論が紹介されています。

冒頭でお伝えしましたが、政策金利が上昇トレンドに入った今だからこそ、一歩立ち止まって考えるべき点があります。以下、本文からの抜粋です。

人口減少時代にあっても、市場金利が上昇すれば資金利鞘が拡大するのか、それが重要な論点になってくる。

「地域金融のあしたの探り方」本文より

政策金利が上がれば、自然体で銀行収益は増加するのか?

答えは、もちろんNo。
預貸ビジネスのみで戦うならば、規模の経済に業績は左右されるという結論。

ただし、本書の見どころは資金需要が見込めない地方銀行が取るべき次の一手まで踏みこんだ提案が展開されるところ。

銀行の合併か、単独モデルか・・・

地域密着か、広域展開か・・・

小規模なオペレーション改善を超え、銀行の経営モデルのリ・デザインへ・・・

様々な気づきを与えてくれます!

新たな産業分類の提案

ここまでは、地域金融機関が中心の内容を紹介してきました。

本書3つ目のポイントは、地域金融機関を含む地域経済の育み方の解説がある点です。

地域産業の発展なくして、地域金融機関の発展はありえません。

地域産業を育むため、大きく3つの観点で解説されています。

  1. 新たな産業分類の捉え方(ILO産業分類)
  2. 地域産業の育成手法
  3. 数多くの自治体の事例

私自身、地域産業の支援に携わった際、本書のILO産業分類の考え方でプレゼンテーションを行い、役員から高い評価を頂きました。

銀行本部の産業支援を担当する行員は本書必読です!

銀行員への矜持

本書最終章のタイトルは『バンカーのための科学と科学史についての随想』。

科学が関係あるの?

と思いますよね。

これが、見事に繋がるのが本書の魅力。科学史で起きた事象から銀行員たちへのメッセージに繋がる展開は必読です。

少し長いですが、以下の本文抜粋を是非ご一読いただきたい。

特許局の小役人(三等技術師)、アルベルト・アインシュタイン。科学の世界は、そんな彼の論文を認めたのだ。

だれが書いたのかではなく、論文の内容そのもので判断する世界、それが科学の世界であり、物理の世界であるということだ。

権威、肩書、社会的地位、シニオリティ、みんながよいといっている。バンカーの多くは、こうした観点から評価しようとする。
~中略~
もしアインシュタインが特殊相対性理論についての論文をもってバンカーの前に現れ、査読を依頼してきたらどうなるだろうか。多くのバンカーは「専門家ではないのだから、君には発言権はないよ」と言って追い返すのではないだろうか。バンカーたちは、本当に優れたものを実は見逃しているのではないだろうか。

そして、もう一つ

30年にもわたってコンサルティングを生業とし、多くのバンカーたちとつきあってきたが、多くのバンカーがあまりにも偏った見識に偏執し、銀行業の発展を阻害しているようにさえ思える。

同質性の強い人たちだけとつきあっていけばすむのなら、それ以上に居心地がよいことはない。
~中略~
異質の世界に触れることこそ、成長に反転するチャンスであることを伝えたかったのである。

本書が最終的に伝えたかったのは銀行員たちのマインドセット変革

著者の熱い想いが込められている点も本書の魅力です。

まとめ

まとめ

大庫 直樹 氏の著書『地域金融のあしたの探り方』。

本書のオススメポイントは、

  1. 公的データを使った事実に基づく論理展開
  2. コンサル目線での経営戦略の提案
  3. 産業分類の新たな捉え方
  4. 銀行員への強烈なメッセージ

の4点にまとめられます。

地域経済の将来を自らの手で創りたい地銀マンに、本書『地域金融のあしたの探り方』を強くオススメします!

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