銀行員のキャリアの中で、大きな転機の一つが他社への出向。
この他社への出向は、タイミングと行き先によってその目的や人事的な意味が全く異なります。
銀行において出向に選ばれる人は、大きく3つに分けられます。
- 片道切符の出向(島流し)
- 取引先の危機を救うための出向
- 将来の幹部を育てるための育成出向
この記事では、それぞれの出向の解説と、出向経験のある銀行員へのインタビューに基づく出向の実態を紹介します。
あなたも知らず知らずのうちに、出向候補の一人になっているかもしれません。
出向の真実を知り、自分のキャリアを見直すきっかけにしましょう!
出向とは何か?
出向は、日本の人事異動の一種で、組織の外に向かって行われる異動のこと。(Wikipedia)
出向とは、自分が勤める企業以外の企業や組織に異動すること。
また、従業員としての籍を移すか否かによって、2つに分けられます。
- 在籍出向
自分が勤める企業に、従業員としての籍を置いたまま、他企業等に出向すること。 - 転籍出向
従業員としての籍もろとも、出向先の企業にうつる出向。
転籍出向の場合、銀行を退職して新しい会社に転職するということ。
冒頭の3つの出向に選ばれる人を分類すると以下のとおりになります。
- 片道切符の出向(島流し) ⇒ 転籍出向
- 取引先の危機を救うための出向 ⇒ 在籍出向
- 将来の幹部を育てるための育成出向 ⇒ 在籍出向
見るからに、転籍出向はヤバそうですよね。
続いて、出向したときの処遇について解説します。
出向後の処遇はどうなる?
続いて出向後の処遇などについて、以下4点について解説します。
それぞれ確認しましょう。
出向する年代
出向する年代として最も多いのは、40代後半以降の年代です。
この年代では、片道切符の出向(島流し)と取引先の危機を救うための出向の2つが多く、両ケースともそのまま出向先の企業に転籍となることが多いです。
将来の幹部を育てるための育成出向については、将来性あるミドル世代から選ばれることが多く、20代前半から30代がメインどころです。
出向する割合
出向する割合については、リアルなデータを紹介します。
約40歳の私の同期のうち、出向経験があるのは約5%です。
私の同期で出向したのは全員、将来の幹部を育てるための育成出向。具体的にはメガバンク・特定分野の外部企業への出向です。
ちなみに、銀行員は役員にならない限りいずれ出向します。したがって、片道切符の出向(島流し)を含めると出向する割合はほぼ100%になります。
出向後の給料
出向後の給料は、在籍出向か転籍出向かで異なります。
- 在籍出向
籍は銀行のままなので、銀行の給与体系で給料が支払われます。 - 転籍出向
籍もろとも出向先の企業にうつるので、出向先の給与になります。多くの場合、出向先の企業の給与体系になると給料は下がります。おおよそ6~7割くらいになると言われています。
出向後の待遇
福利厚生や社宅・人事上の取扱いなど待遇も、在籍出向は銀行時と同じ待遇。転籍出向だと出向先企業の待遇になります。
待遇に関しては、転籍した出向先企業の方が良い場合もあります。例えば、出向先が小売業だったら社員割引がある等、銀行にはない独自の福利厚生があります。
銀行における3つの出向
おさらいになりますが、銀行で出向に選ばれる人には以下3つのタイプがあります。
- 片道切符の出向(島流し)
- 取引先の危機を救うための出向
- 将来の幹部を育てるための育成出向
ここからは、3つのタイプそれぞれを詳しく解説していきます。
もしも自分が出向を命じられたとき、冷静でいられるよう出向目的をしっかり認識しておきましょう!
片道切符の島流し出向
『このピンチを覆せないと、お前も俺も片道切符の島流し』
この言葉はドラマ半沢直樹で、ピンチに陥った半沢に対し、上司である内藤部長が発した言葉です。
片道切符と表現されるとおり、銀行に戻ることがない出向。これが、片道切符の島流し出向です。
対象となるのは
など様々なケースがあります。
いずれにおいても、人事的な意味としては左遷といえる出向です。
取引先の危機を救うための出向
以上のように金融のプロフェッショナルの知見を必要とする取引先への出向もあります。
ドラマ半沢直樹でいうと、関連の証券会社の立て直しのため出向した半沢や、業況不調の取引先に出向した近藤(半沢の同期)などが取引先の危機を救うための出向にあたります。
この出向の場合、取引先の危機を救うことが期待できる有能な銀行員が選ばれます。
また、業況が厳しい取引先への出向は極めてハードな仕事です。
したがって、私が属する銀行においては、不芳先への出向が終わるとほぼ漏れなく出世して、銀行に戻ってきます。つまり、この出向は栄転といえます。
将来の幹部を育てるための育成出向
数はグッと減りますが、特定分野のノウハウ・人脈を得るために出向するケースもあります。
特に多いのが、財務省(金融庁)や日銀への出向。そして、メガバンクへの出向です。
もちろん、その他にも
などへの出向があり、いずれも経営幹部あるいはスペシャリスト養成という位置付けの出向です。
※他サイトでは預金保険機構への出向が紹介されていますが、預保への出向は昔の話。今はほぼありません。
3つの出向目的の割合
ここまで解説してきた3つの出向の割合は、以下のとおりです。
- 片道切符の島流し出向が90%
- 取引先の危機を救うための出向が5%
- 将来の幹部を育てるための育成出向も5%
当然、退職間近の行員の出向を含む片道切符の島流し出向が最多です。
以上、出向の意味が分かったところで、次に気になるのがどのような企業への出向が多いのか?
次の章で解説していきます!
銀行の出向先のラインナップ
銀行員が出向する企業にはいくつかのパターンがあります。
まず大前提は、銀行と密接な関係がある企業・組織であること。
したがって、ブラック企業や反社的な意味で危険な企業に出向させられることはありません。
経営的な意味で危険な企業に出向することはあり得ます。
銀行員の出向先の5つのパターンを紹介します。
- 関連会社
- 取引先
- メガバンクなど他行
- 行政機関
- 特定分野の外部企業
関連会社
片道切符の島流し出向での出向先として多いのが、銀行グループの子会社である関連会社への出向。
銀行グループといえば
- 証券会社
- ベンチャーキャピタル
- 信販会社
- 保証会社
- クレジットカード会社
- リース会社
- IT企業
など様々な業種が挙げられます。
関連会社への出向の特徴は、社員のほとんどが銀行OBであること。
したがって、非常に働きやすいというメリットがある反面、元上司や先輩という関係性そのままに働かないといけないというデメリットがあります。
取引先
取引先の危機を救う出向は当然、取引先に出向します。また、片道切符の島流し出向も行き先が、取引先であることが多いです。
ただし、両者では大きく違いがあります。
取引先の危機を救うための出向の場合、事前の打診があるので、自分がどちらのケースの出向なのかはすぐに分かるはずです。
メガバンクなど他行
ここからは、将来幹部・スペシャリスト育成出向での行き先を3連発で紹介します。
まずは、メガバンクをはじめとした先進的な他行への出向。
メガバンクと地銀の株の持ち合いがあるため、資本関係があるメガバンクへの出向が頻繁に行われます。
しかし、昨今ではこの傾向が少し変わりつつあります。資本的な繋がりよりも、先進的なファイナンス手法の習得やデジタル技術のノウハウを得るため、先進的な銀行に出向する例が増えています。
事例を挙げると、北陸銀行からみずほ銀行にストラクチャーファイナンスを学ぶための出向
アプリ等のwebサービスを学ぶためのiBankマーケティング(福岡フィナンシャル・グループ)への出向などがあります。
行政機関
続いては行政機関への出向。大きく分けると以下3つのパターンがあります。
監督省庁への出向は、まさに経営幹部への第一歩。いわゆるMOF担というやつです。
その他の国の行政機関と地方公共団体への出向も、人脈作り・専門知識の習得が目的であり、将来を期待される銀行員が出向する先に間違いありません。
特定分野の外部企業
特定分野の外部企業への出向の代表は、日本M&Aセンターへの出向です。
少子高齢化・産業衰退に伴う企業承継やM&Aのニーズが高まることが予想される昨今、頭のキレるバリバリのエースを日本M&Aセンターに送る銀行は多いです。
現在、銀行は旧来的なファイナンスよりも、法人ソリューション営業を強化しています。
これに伴い、新たなソリューションに詳しい人材を育成するため、この出向枠はさらに拡大することが予想されます。
出向経験者の声
最後に、実際に出向を経験した銀行員の声を紹介します。
出向先での生活や苦労話を通じて、出向のリアルをお伝えします!
役職定年により出向した人
役職定年に伴い出向した人。出向タイプは片道切符の出向であり、役員になる銀行員以外は誰しもがたどる道。
役職定年により関連のリース会社に出向した人にいくつか質問をしてみました。
どんな仕事をされているんですか?
今は〇〇エリアの営業を担当してるよ。
銀行の支店長からイチ営業マンへの転身ですが、ギャップは感じますか?
最初は、この歳で営業かよ~と思ったけど、全くストレスはないね!
銀行時代のように数字で詰められることもないし、新規開拓もない。
そもそも営業が好きなのもあるけど、楽しくやってるよ。
人間関係はどうですか?
そこがストレスの一つなんだ…。
昔の上司がたくさんいるんで、かなり気を使うよね。
向こうは、そこまで気にしてないかもしれないけど、つい忖度してしまう。
銀行員の習性だね。
もっと色々と質問したかったのですが、逆に私の近況や銀行本体の人事や動向・噂話などを聞かれました。
ということで、関連会社に出向した方は
という状況でした。
大口与信先に出向した人
次は、新規事業を行うために企業買収を計画していた大口与信先に出向した、法人営業エース銀行員の話しを聞きました!
出向先の企業ではどんな仕事をされてたんですか?
端的にいうと、社長の右腕だね。
社長が構想した企業買収を実現するために出向したんだ。
かなり重い仕事ですね…。
どのような点で苦労がありましたか?
苦労は、社内の人間関係。
社長の右腕として、いきなり来た銀行員。悪く思う人は多いよね。
それと、勤怠管理。時間外勤務や夜間勤務は記録されない。
いかに銀行の勤怠管理がしっかりしてるか分かったよ。
相当、苦労されたんですね…
相当なんてもんじゃないくらい苦労したよ。
今までの経験を活かせば余裕でこなせると思ったけどキツかった!もう二度と出向したくないね!
イケイケの先輩だっただけに、出向先での苦労話は新鮮でした。
このインタビューを通じて、取引先への出向では
といった状況に陥ることが分かりました。
メガバンクに出向した人
最後は、メガバンクに出向した人。
これ、実は私自身です!
とある業務のスペシャリスト養成という位置付けで約1年間の出向を経験しました。
同じように他の地銀からも出向しているメンバーがいたため、出向者同士で妙な連帯感が生まれ、人間関係で悩むことはありませんでした。
業務自体は、個人として、そして自分が属する銀行としても未知の世界だったので、開き直って愚直に学び、怒られては学びを繰り返しました。
全体を見通すと、
という感じで、人生の中でも実り多い1年になりました!
まとめ
出向は、銀行員人生を左右する重要なライフイベント。
出向には以下の3つのタイプがあります。
- 片道切符の出向(島流し)
- 取引先の危機を救うための出向
- 将来の幹部を育てるための育成出向
蛇の道にいえる「片道切符の島流し出向」なのか?
ハードな仕事が待つ「取引先の危機を救うための出向」?
出世の道が続く「将来の幹部を育てるための育成出向」か?
良い銀行員人生を自らの手で掴みとりましょう!!