銀行でのキャリアの中で、銀行員人生を左右するのが「他社への出向」です。
しかし、この出向。
出向するタイミングと出向先によって、その目的や人事的な意味が全く異なります。
銀行における出向の目的は、大きく3つに分けられます。
- 片道切符の島流し出向
- 取引先の危機を救うための出向
- 将来の幹部を育てるための育成出向
この記事では、上記3つの出向について解説するとともに、実際に出向経験がある銀行員にインタビューした内容も紹介します。
あなたも知らず知らずのうちに、出向候補の一人になっているかもしれません。
出向の真実を知り、自分のキャリアを見直すきっかけにしましょう!
出向とは何なのか?
出向は、日本の人事異動の一種で、組織の外に向かって行われる異動のこと。(Wikipediaより)
出向とは、自分が勤める企業以外の企業や組織に異動すること。
また、従業員としての籍を移すか否かによって、2つに分けられます。
- 在籍出向
自分が勤める企業に、従業員としての籍を置いたまま、他企業等に出向すること。 - 転籍出向
従業員としての籍もろとも、他企業等にうつす出向のこと。
転籍出向の場合、銀行を退職して新しい会社に転職するということ。
つまり、銀行員ではなくなるということです!
冒頭の3つの出向目的を分類すると以下のとおりになります。
- 片道切符の島流し出向 ⇒ 転籍出向
- 取引先の危機を救うための出向 ⇒ 在籍出向
- 将来の幹部を育てるための育成出向 ⇒ 在籍出向
見るからに、転籍出向はヤバそうですよね。
ということで、次はこの記事の本題である銀行における3つの出向目的について解説します。
銀行における3つの出向目的
おさらいになりますが、銀行の3つの出向目的とは
- 片道切符の島流し出向
- 取引先の危機を救うための出向
- 将来の幹部を育てるための育成出向
です。
ここからは、この3つの目的について詳しく解説していきます。
もしも自分が出向を命じられたとき、冷静でいられるよう出向目的をしっかり認識しておきましょう!
片道切符の島流し出向
片道切符の島流し・・・
これはドラマ半沢直樹で、ピンチに陥った半沢に対し、上司である内藤部長が発した言葉です。
『このピンチを覆せないと、お前も、俺も、片道切符の島流し』
片道切符と表現されるとおり、銀行に戻ってくることなく出向する。これが、片道切符の島流し出向です。
対象となるのは
など様々なケースがあります。
いずれにおいても、人事的な意味としては左遷に位置付けられる出向です。
取引先の危機を救うための出向
以上のように金融のプロフェッショナルの知見を必要とする取引先への出向もあります。
ドラマ半沢直樹でいうと、関連の証券会社の立て直しのため出向した半沢や、業況不調の取引先に出向した近藤(半沢の同期)などが取引先の危機を救うための出向にあたります。
この出向の場合、取引先の危機を救うことが期待できる有能な銀行員が選ばれます。
また、業況が厳しい取引先への出向は極めてハードな仕事です。
したがって、私が属する銀行においては、不芳先への出向が終わるとほぼ漏れなく出世して、銀行に戻ってきます。つまり、この出向は栄転といえます!
将来の幹部を育てるための育成出向
数はグッと減りますが、特定分野のノウハウ・人脈を得るために出向するケースもあります。
最もイメージしやすいのが財務省(金融庁)や日銀への出向です。特に、この2つのケースでの出向に選ばれる人は、将来の幹部候補と考えてよいでしょう。
もちろん、その他にも
などへの出向があり、いずれも経営幹部あるいはスペシャリスト養成という位置付けの出向です。
3つの出向目的の割合
ここまで解説してきた3つの出向の割合は、
- 片道切符の島流し出向が90%
- 取引先の危機を救うための出向が5%
- 将来の幹部を育てるための育成出向も5%
といった具合です。
当然、退職間近の行員の出向を含む片道切符の島流し出向が最多です。
以上、出向の意味が分かったところで
次に気になるのが『出向する先の企業や組織には、どのようなものがあるのか?』
次の章で解説していきます!
銀行の出向先のラインナップ
銀行員はどんな企業にも出向する訳ではありません。
銀行の出向先は、銀行と密接な関係がある企業・組織であることが一般的。したがって、とんでもないブラック企業や反社的な意味で危険な企業に出向させられることはありません。
経営的な意味で危険な企業に出向することはあり得ます。
銀行員が出向する可能性がある5つの出向先を解説していきます!
関連会社
片道切符の島流し出向での出向先として多いのが、銀行グループの子会社である関連会社への出向。
銀行グループといえば
- 証券会社
- ベンチャーキャピタル
- 信販会社
- 保証会社
- クレジットカード会社
- リース会社
- IT企業
など様々な業種が挙げられます。
関連会社への出向の特徴は、社員のほとんどが銀行OBであること。
したがって、非常に働きやすいというメリットがある反面、元上司や先輩という関係性そのままに働かないといけないというデメリットがあります。
取引先
取引先の危機を救う出向は当然として、片道切符の島流し出向でも多いのが、取引先への出向です。
ただし、両者では大きく違いがあります。
取引先の危機を救うための出向では多くの場合、事前の打診があるので、自分がどちらのケースの出向なのかはすぐに分かるはずです。
メガバンクなど他行
ここからは、将来幹部・スペシャリスト育成出向での行き先を3連発で紹介します。
まずは、メガバンクをはじめとした先進的な他行への出向。
昔は、メガバンクと地銀の株の持ち合いがあったため、資本関係があるメガバンクへの出向が頻繁に行われていました。
しかし、昨今では資本的な繋がりよりも、先進的なファイナンス手法の習得やIT・データアナリティクス等のノウハウを得るために先進的な銀行に出向する事例が多くなっています。
【事例】を挙げると、北陸銀行からみずほ銀行にストラクチャーファイナンスを学ぶための出向
アプリ等のwebサービスを学ぶためのiBankマーケティング(福岡フィナンシャル・グループ)への出向などがあります。
行政機関
続いて、行政機関への出向。
大きく分けると
監督省庁への出向は、まさに経営幹部への第一歩。いわゆるMOF担というやつです。
また、その他の国の行政機関も地方公共団体も、人脈作りという側面もあれば、専門知識の習得という側面もあり、いずれにしても将来を期待された銀行員が出向する先に間違いありません。
特定分野の外部企業
特定分野の外部企業への出向。
その代表は、言わずもがなの日本M&Aセンターへの出向です。
少子高齢化・産業衰退に伴う企業承継やM&Aのニーズが高まることが予想される昨今、頭のキレるバリバリのエースを日本M&Aセンターに送る銀行は非常に多いです。
現在、銀行は旧来的なファイナンスよりも、法人ソリューション営業を強化しています。
これに伴い、新たなソリューションに詳しい人材を育成するため、この出向枠は拡大することが予想されます。
出向経験者の声
最後に、実際に出向を経験した銀行員の声を紹介します。
出向先での生活や苦労話を通じて、出向のリアルをお伝えします!
役職定年により出向した人
役職定年に伴い出向した人。
出向タイプ的には片道切符の出向であり、聞こえは悪いですが、どの銀行員も最後にはたどる道。
役職定年により関連のリース会社に出向した人にいくつか質問をしてみました。
どんな仕事をされているんですか?
今は〇〇エリアの営業を担当してるよ。
銀行の支店長からイチ営業マンへの転身ですが、ギャップは感じますか?
最初は、この歳で営業かよ~と思ったけど、全くストレスはないね!
銀行時代のように数字で詰められることもないし、新規開拓もない。
そもそも営業が好きなのもあるけど、楽しくやってるよ。
人間関係はどうですか?
そこがストレスの一つなんだ…。
昔の上司がたくさんいるんで、かなり気を使うよね。
向こうは、そこまで気にしてないかもしれないけど、つい忖度してしまう。
銀行員の習性だね。
もっと色々と質問したかったのですが、逆に私の近況や銀行本体の人事や動向・噂話などを聞かれました。
ということで、関連会社に出向した方は
という状況になるようです。
大口与信先に出向した人
次は、新規事業を行うために企業買収を計画していた大口与信先に出向した、法人営業エース銀行員の話しを聞きました!
出向先の企業ではどんな仕事をされてたんですか?
端的にいうと『社長の右腕』だね。
社長が構想した企業買収を実現するために出向したんだ。
かなり重い仕事ですね…。
どのような点で苦労がありましたか?
苦労は、社内の人間関係。
社長の右腕として、いきなり来た銀行員。悪く思う人は多いよね。
それと、勤怠管理。時間外勤務や夜間勤務は記録されない。
いかに銀行が勤怠管理をしっかりやってるか分かったよ。
相当、苦労されたんですね…
相当なんてもんじゃないくらい苦労したよ。
出向先でも余裕でやってけると思ったけど、キツかった!
もう二度と出向はしたくないね!
イケイケの先輩だっただけに、出向先での苦労話は新鮮でした。
このインタビューを通じて、取引先への出向では
といった状況に陥ることが分かりました。
メガバンクに出向した人
最後は、メガバンクに出向した人。
これ、実は私自身です!
とある業務のスペシャリスト養成という位置付けで、1年間メガバンクに出向しました。
同じように他の地銀からも出向しているメンバーがいたため、出向者同士で妙な連帯感が生まれ、人間関係で悩むことはありませんでした。
業務自体は、個人として、そして自分が属する銀行としても未知の世界だったので、開き直って愚直に学び、怒られてはまた学びを繰り返していました。
全体を見通すと、
という感じで、人生の中でも実り多い1年になりました!
まとめ
出向は、銀行員人生を左右する重要なライフイベント。
出向には以下の3つのタイプがあります。
- 片道切符の島流し出向
- 取引先の危機を救うための出向
- 将来の幹部を育てるための育成出向
蛇の道にいえる「片道切符の島流し出向」なのか?
ハードな仕事が待つ「取引先の危機を救うための出向」?
出世の道が続く「将来の幹部を育てるための育成出向」か?
良い銀行員人生を自らの手で掴みとりましょう!!