名寄せが銀行にとって重要である理由|本部勤務の現役銀行員が解説

銀行全般

銀行において、名寄せは単なるデータ管理方法の一つではなく、銀行の業績をも左右する重要な要素。

しかし、銀行員でも「名寄せ=ペイオフ」と勘違いしている等、名寄せの重要性を理解してない人もいます。

本記事では、銀行本部に勤務する現役銀行員が、

  • 名寄せとは何か?
  • 名寄せがなぜ銀行にとって重要なのか?
  • 名寄せが不十分だとどうなるのか?
  • 名寄せ方法と名寄せ種類

を解説してまいります。

これから名寄せについて学びたいビジネスマンにとって、銀行の名寄せの基本から応用まで学べる記事に仕上げています。

この記事を通じて、名寄せの重要性を理解し、実務に役立てていただければ幸いです。

名寄せとは?

基本的な情報

まずは、名寄せの基本的な概念とその重要性を具体例を交えて解説します。

名寄せには、大きく2つのニュアンスがあります。

複数支店の取引を集約

一つは、複数の支店で取引がある人をデータ上でも同一人物と見なせるようにすること。

名寄せ①の具体例
  • 東京支店と大阪支店に口座を持つAさん。
  • 銀行では取引がある支店ごとに顧客番号(CIF)を採番。
  • したがって、このままでは東京支店のAさんと大阪支店のAさんは別人と判定。
  • そこで名寄せの登場。名寄せ処理を行うことで、東京支店・大阪支店の取引が両方とも同一人物Aさんのものと判断可能になります。

異なるシステムの情報を統合

続いて、名寄せの二つ目の意味合いは、異なるデータベースやシステムに存在する同じ顧客の情報を一つにまとめることです。

名寄せ②の具体例
  • 銀行には様々なシステムがあり、それぞれで顧客情報を保有。
  • 例えば、融資関連システムや預かり資産関連システムなど様々あります。
  • それぞれのシステムが持つ情報を統合することを名寄せと呼びます。
  • この名寄せを行うことで、業務横断的に顧客データが一元化され、顧客理解を深めることが可能になります。

名寄せは、データの正確性を保ち、顧客のことを正しく理解するために欠かせない極めて重要なプロセス。

銀行にとって、名寄せは単なるデータ管理の手法ではなく、重要な戦略的要素となっています。

名寄せが銀行にとって重要な理由

原因

名寄せが銀行にとって、戦略的に重要な理由は、大きく2つあります。

ペイオフ

まず第一に、銀行は預金保険機構の取り決めにより、顧客情報を正確に管理するため、名寄せを行うよう求められています。

理由は、銀行破綻時の預金の取扱い(ペイオフ)に関する必須事項だからです。ペイオフとは以下のとおりです。

万が一金融機関が破綻した場合、預金保険で保護される預金などの額は、 ~~(中略)~~ 1金融機関ごとに合算して、 預金者1人当たり元本1,000万円までと破綻日までの利息等が保護されます。

預金保険機構

ご覧のとおり、銀行破綻時には預金保険機構が『破綻銀行における預金者1人あたり最大1,000万円+利息』を預金者に支払うことが定められています。

したがって、銀行は常に複数の支店に預金がある預金者も預金者1人として預金総額を把握している必要があるのです。

効果的な営業

次に、名寄せが重要な2つ目の理由は、名寄せ不十分だと顧客の資産や契約状況を正しく把握できず、営業活動に支障をきたす恐れがあるためです。

例えば、

  • 東京支店に預金100円、大阪支店に1億円の預金があるXさん。
  • 名寄せができていないと、東京支店のXさんと大阪支店のXさんは別人格と見なされます。
  • よって、東京支店の口座だけ見るとお金が無いのでローンのターゲットにされます。本当は大阪支店に1億円もあるのに…。

ということが起きてしまいます。

名寄せが正しくないとどうなる?

名寄せが正しく行われてないと、銀行にとって2つの大きな問題が発生します。

この2つというのは、先に紹介した名寄せの2つの重要性と完全にリンクするもの。名寄せの重要性とその問題をセットで把握しておきましょう!

預金保険機構からの摘発

名寄せをしっかり行っていないと、預金保険機構から摘発される可能性があります。

預金保険機構は、銀行破綻時に預金者1人ごと最大1,000万円とその利息を支払う責務を負っています。

したがって、銀行の名寄せが不十分だった場合、同一人物なのに別人格と見なして余分にお金を支払う事態が発生。

そのため、預金保険機構は銀行の名寄せを監視しています。そして、もしも名寄せ不備が頻発し改善しなければ、罰金や業務改善命令などのペナルティを課すことがあります。

こうなると銀行の信用が著しく損なわれるだけでなく、経済的な損失も避けられません。

誤情報による営業リスク

次に、顧客のニーズとは異なる営業活動を行ってしまうリスクもあります。

名寄せが正確でないと、先ほどの例のように顧客を正しく理解できません。

その結果、顧客が本当に必要としているサービスや商品を提供できず、顧客満足度が低下する可能性があります。いくつかの例を挙げます。

  • 別の口座にお金がたくさんあるのに、預金が少ない口座だけ見て、ローンのセールスを行う。
  • 既に住宅ローンがあるのに、ローン返済には使ってない口座だけ見て、住宅ローンをオススメする。
  • とある口座だけ差押えがかかっていて、別の口座で口座振替の契約をしてしまう。

このように顧客にとって不要な営業や案内をしてしまうと、信頼関係が損なわれるだけでなく、最悪の場合には取引を他の銀行に移ってしまうことも考えられます。

名寄せの具体的方法

名寄せの重要性がお分かり頂けたところで、名寄せの具体的な方法について簡単に紹介します。

ポイントとなるのは、銀行内の各種データをいかにして同一人物と判定するかです。

同一人物の判定に使う情報は、銀行によって異なりますが、概ね以下のとおりになります。

  • 氏名
  • 性別
  • 年齢
  • 住所
  • 電話番号

これらの情報が同一の顧客は同一人物となるよう名寄せ処理が実行されています。

名寄せの種類

ここまでの名寄せの説明は、個人の名寄せの内容でした。

実は、銀行の名寄せにはいくつかの種類があります。

ということで、最後に銀行が扱う名寄せの種類を一挙紹介していきます!

  • 世帯名寄せ
    夫婦、親と子など同一世帯の把握を可能とする名寄せ。世帯単位での資産を計算したり、世帯内での価値観の伝播などを営業活動に活かします。
  • 家系名寄せ
    世帯名寄せをさらに拡大し、祖父母と親と子の3世代などにわたる家系を把握するための名寄せ。この思想と仕組みは、一部の銀行しかありません。
  • 法人名寄せ
    小売店のように、店舗ごとに口座を持っている場合、同一法人の口座を把握するための名寄せです。
  • 自己査定名寄せ
    自己査定とは、貸出先の法人の健全性をはかる作業。この自己査定では、貸出先法人とその代表者を一体として査定を行います。この際、使う名寄せが自己査定名寄せです。

まとめ

まとめ

銀行が行っている名寄せ処理は、ペイオフのみならず、正しく顧客を理解するという点で銀行経営において非常に重要な情報管理です。

名寄せを十分に行っていないと、

  • ペイオフの判断が正しく行われず、預金保険機構から摘発される恐れがある。
  • また、顧客理解を正しく正確に行えず、不適切な営業を行う等のリスクがある。

といった事態に陥りかねません。

銀行では、名寄せをはじめ顧客情報の取扱いは、セキュリティ含め徹底的に整備・管理を行っています!

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